バトン承継コンサルタントの浅野泰生です。
今回は、後継経営者からの質問に答えていきます。
社長を飛び越えた指示
先日お邪魔した後継経営者から、このような相談を受けました。
『最近、入社した社員に、会長から直接指示が出る。
自分(後継経営者である現社長)と方針が一致しているものであれば問題ないが、会長との意見の異なる内容を指示されると、入社したばかりの社員が戸惑ってしまう』
というもの。
どの会社でも生ずることではあるが
まず後継経営者の方にお伝えしたいのは、自社に限らずどこにでも起こっている話だということ。
なので「安心してください」というつもりはありませんが、どこにでも生ずるものだという前提で対応すればいいという話です。
創業者の感覚は大方「おまえのものは俺のもの、俺のものは俺のもの」というものです。
会社そのものが自分の所有物なのです。
親からすれば子供が50歳になっても子供は子供であるように、内部昇格で社長になった人は特に、会長にとっては社長はいつまで経っても部下は部下なのです。
ということからすると、事業承継をして社長が雇った社員も、会長が雇った社員と同じ。
承継前と何ら変わらず、悪気なく何の考えもなしに指示を出しているだけなのです。
「悪気なく」というのが一番危険なんですがね。
解決の方向性は新たな役割を
私のアドバイスは、本業にも良い影響が出るような形で、別の組織体での新たな肩書と役割を与えるということ。
こんな事例を交えて。
もともと新素材の開発をしたくて大企業から独立した創業者がいました。会社を大きくして事業承継したあと、2代目は創業者のために「●●研究所」を設立し「初代所長」という肩書きを用意して、改めて新素材の研究に没頭できる環境をつくりました。
結果として、本体の経営に創業者が口を挟むことはなく、研究所で開発されたものが新商品として販売され、本体の業績も右肩上がりになったということでした。
会長に口を挟まれると、その存在が煙たく感じる気持ちは十二分に理解できます。
一方、会長の方も、頭では、新社長に任せたい、潔い存在でいたい、と思っているはずです。
ただ、創業者という特性が、ついつい黙ってはいられない状況を自らつくってしまうのです。
現在の60代は、身体も元気なら頭もある程度冴えています。根っから仕事好きなのが創業者ですから、暇を持て余してしまうのです。
ということで、会長が社長の頭越しに指示を出してしまうことについては、会長を諌めることなく、会長の情熱や能力を別のところに向ける工夫をするということです。
同じ組織体にいると「指示を出してしまう」のを防ぐことは難しいので、別の組織体をつくるという「仕かけ」が必要なのです。
そうなれば、会長もやり甲斐を持ち、社長もストレスが溜まらず、社員も指示を受けるべき相手は社長一人となって迷わない、という三方よしが成立します。